B.B.CLOVERSコラム【甲子園の教訓】 ~New Edition~
No.7 「無情!サヨナラエラー!!」

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さて、コラムNo.6では、「甲子園開幕戦②」をご紹介致しましたが、このコラムNo.7では、運命の延長12回から激動の結末までをご紹介してまいります。

【写真:「プロ野球選手の甲子園伝説」に掲載された記事】

いよいよ、試合は運命の12回の攻防を迎えます。

12回表、桐蔭学園の攻撃は5番・副島から。

副島の放った打球はセンターへ一直線。
入ったか?と思った打球はワンバウンドでフェンスに当たるツーベースヒット。
ようやく勝ち越しの大きなチャンスを迎えます。

ここまでのチャンスでは全て強攻策でチャンスを潰してきた桐蔭、ここは手堅く送りバントを選択します。
しかし、これが上手くいきません…。

結局、後続2人がランナーを進められないまま、2アウトランナー2塁でバッターは8番・萩島…。

先ほどの打席も非常に緊迫感のある打席でしたが、この打席はそれを軽く上回る状況です。
打てばヒーロー、結果が出なければさらにチームの雰囲気は重くなります。

ある意味、この試合、僕は「持って」いたのでしょう。
野球の神様が「甲子園のヒーローになるチャンス」をくれていたのでしょうね。

しかし、結果は…。

相手投手の球威に押され、ボテボテのサードゴロ。
1塁は際どいタイミングだったものの、間一髪でアウト!
桐蔭は「惜しかった」という一言では片付けられない大きなチャンスを失います。

そして迎えた12回ウラの沖縄尚学の攻撃、先頭バッターは7番・島選手。
島選手が放った打球はライナーでライトへ伸びてきます。
ライト・萩島、猛ダッシュで前進してダイビング!

打球は地面スレスレで僕のオレンジ色のグラブに収まりました。
ファインプレーです!

ちなみに、この時の僕の心境…。

何も覚えていません(笑)。

まさに「無我夢中」で飛び込んでいったのでしょう。

この打球を「仮に後逸していたら!?」などとは全く考えていませんでした。

しかし、このファインプレーを見届けていた桐蔭ナイン、試合後の僕に一言…。

「あれ、ワンバウンドじゃね!?」

…(--;)

捕りました、絶対にノーバウンドで捕りましたから!
ビデオを何度観ても、確実にノーバウンドで捕っています。

さらにもう一言。

「うまくごまかしたよな!」

…(>_<)

だから、捕ったって言ってるのに…(;_;)

さて、僕のファインプレーは置いておいて、話を試合に戻していきましょう(笑)。

僕の疑惑(?)のファインプレーで桐蔭はピンチを脱したかに思えましたが、次のバッターに対してライト前へとポトリと落ちるヒットで出塁を許します。
しかし、よくもこれだけライトへと飛んでくるものです。

この時の僕ですが、先ほどのダイビングキャッチによりみぞおちを激しく強打して、実は苦しくて息も絶え絶えの状態だったのです。

それでもライトへと飛んでくる打球を必死に追いかけたことを思い出します。

その後、送りバントと敬遠でツーアウト1、2塁。
ここで迎えたバッターは、ここまで5打席ノーヒットの2番・宜保選手。

野球の確率から言えば、そろそろヒットが出てもおかしくない6打席目。

しかし、それまで3安打している1番バッターとの勝負は避けざるを得ませんでした。

マウンドの由伸はすでに肩で息をしています。
自慢の球威も段々と衰えを見せ始めました。

宜保選手を追い込んでからファールで粘られて、カウントは3ボール2ストライクのフルカウントに…。

野球に詳しい方ならすでにお気づきでしょうが、状況はツーアウト1,2塁です。

そうです、ランナーは投球と同時にスタートを切るわけです。

この状況を受けて、外野手はできる限りの前進守備を敷きます。
ランナーのホーム突入を防ぐことができなければ、それは同時に敗戦を意味するからです。

もちろん、ライトを守る僕も前進します。

このサヨナラを防ぐための前進守備、非常に勇気が要るものなのです。

仮に当たりは平凡でも大きなフライが頭上に上がった場合、打球を追ってバックする距離が相当な距離になり、その位置感覚や目線のズレで非常に難しいプレーになる場合がよくあります。

そんな中、勇気を振り絞って前進していきます。
一歩、また一歩…。

そして、由伸が投じた8球目、宜保選手がやや詰まりながら弾き返した打球は1、2塁間へ!

2塁手の横川が滑り込みながら打球へとチャージします。
しかし、打球はグラブの先をすり抜けてライト前へと抜けます!

ライト・萩島、猛然とダッシュして打球を掴み、全力でバックホーム!

この時、打球へとチャージする狭い視野の中で、2塁ランナーが3塁を回りかけていたことをかすかに覚えています。

そして、僕は中継プレーの準備でホームとの間に居る1塁手の副島を目標に送球します。
もちろん、ダイレクトでホームへとつながる強さで。

この時、桐蔭ナインが想像していない出来事が起こります。

なんと、この状況で3塁コーチャーが2塁ランナーのホーム突入にストップをかけたのです!

これは本当に想定外でした。

確かに僕は前進守備を敷いていましたし、強いボールを返球しました。

しかし、この場面で2塁ランナーの突入を制止する選択肢は考えられませんでした。

そんな中、この状況をしっかりと確認していた選手が桐蔭ナインの中にたった1人だけいたのです。

キャッチャーの深田です。

深田は突入をやめた2塁ランナーの動きを瞬時に把握し、1塁手の副島に向かって声を出します。

「カット!!!!」

しかし、この時の深田の声は、無情にも甲子園の大歓声と悲鳴とでかき消されました。

そして、2塁ランナーが突入してきていると思っている1塁手の副島は、僕の送球をカットせずにダイレクトでホームへと繋ぎます。

ここで、カットの指示を出していた深田の動きが若干遅れます。
さらに悪いことに、ホーム手前でワンバウンドした僕の送球が若干イレギュラーしたのです!

何故イレギュラーしたのでしょうか…?

この時、既にイニングは12回、ライトからホームへの送球は、バッターが打った後に1塁へと走る走路に重なります。

そうです、よりによってこの状況で甲子園の中で一番荒れている場所にバウンドしてしまったのです。

このイレギュラーも想定していなかったキャッチャー・深田、何とかこのボールを体を張って止めに行きます。

が、送球はその意に反して深田の脇をすり抜けていきます。
そしてバックネット方向へ…。

しかし、そこにはピッチャー・由伸が!!

…居なかったのです。

何故でしょうか…?

野球を経験し、ピッチャーを経験した方ならお分かりいただけるのでしょうが、ピッチャーの経験が長ければ長いほど、1、2塁間のゴロに対して、ピッチャーは1塁のカバーリングへと走る習慣が付けられているのです。

この時の由伸も、その習慣に従って一旦1塁方向へとスタートを切っていたのです。

しかし、通常であればゴロが外野へと抜けたことを確認したら、すぐにホームのバックアップへと方向転換して全力で走れば送球には間に合うはずです。

この時、さらなる不運が桐蔭を襲っていたのです。

そうです、写真の記事にもありますが、由伸はこの試合の4回に足を負傷しているのです。
全力で走ることはままなりません。

しかも、僕は極端な前進守備を敷いて、強いボールを送球しています。

僕が全力で投げたバックホームは、無情にも由伸をも追い越してしまったのです…。

ということは…。

そうです、バックネット前には「誰もいなかった」のです…。

それを見た3塁ランナーの沖縄尚学・上原選手が小躍りして、バンザイしながらホームへと帰ってきます!

由伸が必死の形相でバックネット前のボールに追いついた時、桐蔭学園の開幕戦サヨナラ負けが決まりました。

ホームベース付近では、勝った沖縄尚学の選手たちが何重もの歓喜の輪を作ります。

呆然とする桐蔭ナイン、しばらく守備位置から動けません。

そして、この時の僕。

一体何が起きたのか、全く状況を把握することができないくらい、頭の回路が破壊されていました。

とりあえず、スコアボードを見上げてみます。

12回ウラに「1x」と入っています。

「あ、サヨナラ負けだ…」

「えっ!?!?サヨナラ負け!?!?!?」

「一体、一体、俺は何をしてしまったんだろう…!?!?!?!?」

そんな自問自答を続けながら、ホームの整列へと向かいます。

この時の甲子園の正式記録。

「ライト・萩島の悪送球(サヨナラエラー)間のホームインによりサヨナラゲーム成立」

この瞬間から、若干18歳の僕にとってあまりにも辛い日々が始まったのです…。

この試合の模様をYouTubeにて視聴できます。
このコラムを読んだ後、ぜひご覧ください。

https://youtu.be/GQVK8ZcvJbE

次回のコラムNo.8は「開幕戦敗戦、その後」をお送りします。
お楽しみに!