B.B.CLOVERSコラム【甲子園の教訓】 ~New Edition~
No.6 「甲子園開幕戦②」

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連日、熱戦が続いた甲子園も神奈川県代表・東海大相模高が45年ぶりの優勝を果たしました。
この東海大相模が前回優勝したのが1970年だったわけですが、実はこの翌年の1971年に甲子園初出場初優勝の快挙を成し遂げた高校があります。

その高校は…。
そうです、桐蔭学園なのです。
ここにも不思議な縁を感じずにはいられません。

さて、コラムNo.5では、「甲子園開幕戦①」をご紹介致しましたが、このコラムNo.6では、引き続き「甲子園開幕戦②」をご紹介してまいります。

前回は7回終了時までをお伝えしましたが、今回はいよいよ激動の終盤戦に突入していきます。

【写真:甲子園のマウンドで力投する高橋由伸】

いよいよ、試合は両者互角のまま終盤を迎え、8回に入っていきます。

7回表に1点を勝ち越した桐蔭は、この回からリリーフエース・高橋由伸をマウンドに送ります。

実はこの時の由伸、すでに満身創痍の状態で、この試合の4回の本塁突入時のクロスプレーで足を負傷していたのです。

しかし、この時の桐蔭は、終盤にリリーフ・由伸をマウンドに送り込むのが勝利の方程式。
神奈川県大会もこれで勝ち上がってきました。
由伸への絶対的な信頼は揺るぎません。

しかし、まだまだ余力を残す沖縄尚学も必死に追いすがってきます。

この8回に2死満塁と攻め立てられ、同点のタイムリーを許して3-3の同点に追いつかれます。

直後の9回表、桐蔭も2死2塁とチャンスを作り、バッターにはここまでノーヒットの5番・副島。
副島の放った打球は1、2塁間を抜けて、2塁ランナーの横川義生がホームイン!
すぐさま沖縄尚学を突き放します。

この時の僕の心境ですが、「これでようやく逃げきれる…」と胸を撫で下ろしたことが強く印象に残っています。

前回からしつこいようではありますが、最後の最後まで分からない1球1球の真剣勝負に対し、このような気持ちを抱くことがやはりリスペクトに欠けていたのでしょうね。

そして迎えた9回裏、由伸はランナーを出しながらも何とかツーアウトまでこぎつけて、最後の一人と思われたバッターは沖縄尚学の4番・大城選手。

ここで大城選手に甘く入ったストレートを右中間に弾き返され、またも同点に追いつかれてしまいます。

そして、試合はそのまま延長戦に突入します…。

ここで、ベンチの土屋監督が大声で僕を呼びます。

土屋監督 「先頭で代打、萩島!」

僕 「はいっ!!」

いよいよ、子供の頃から夢にまで見た甲子園のグランドに立つ瞬間が訪れました。

しかも、甲子園の開幕戦、観衆は4万5千、そして延長戦の先頭バッターとしてです。

小さな頃からこの時を夢見てきたとはいえ、こんなすごい局面で自分の出番が巡ってくるとはさすがに想像しておりませんでした…(苦笑)

そして迎えた甲子園初打席、東山投手が投じた初球はカーブ。

コース的には甘いボールでしたが、僕はこれを見送ってしまいます。

そして、2球目は外角のストレート。
これを思い切ってスイングします!

「は、速い…」

そのストレートを空振りした僕は、そこで甲子園の雰囲気と相手ピッチャーの気迫に完全に飲まれてしまいます。
まさしく、「周りが見えない」という感覚です。

ここまで、相手の東山投手は150球以上の球数を要し、10回までを一人で投げ抜いています。

「おそらく球威も落ちてきている頃だろう…」

そんな自分の浅はかな考えを上回るストレートの球威に、完全に気後れしてしまったのです。

そして、カウント1ボール2ストライクと追い込まれ、最後は外寄りの変化球を打たされてのショートゴロ…。
僕はベンチの期待に応えることができませんでした。

その回の攻撃を無得点で終え、僕はそのままライトの守備に入りました。

この時のライトから見えた光景や、相手のアルプススタンドの音はよく覚えています。

まず見える景色ですが、「とにかく眩しい」のです。
憧れの甲子園だったから、僕にとっては光り輝いて見えた!
のではありません(笑)
物理的に「眩しい」のです。

何故か?

もちろん、快晴だったこの日の日差しが強かったことは言うまでもありませんが、例えば、みなさんは夏の暑い日に好んで黒や紺といった濃い色のTシャツを着ますか?

ほとんどの皆さんは白など、薄い涼しげな色をチョイスしますよね。

加えて夏の野球観戦時には、白い帽子をかぶることが多いですよね?

そうです、観客のみなさんの上半身が白づくめで、スタンドがすごく白いのです。

さらに、みなさん「うちわ」を持って、それを扇ぎながら観戦しますよね?
この「うちわ」も白。

これが白球と重なって、本当にボールが見づらいのです。
フライは一定の高さまで上がれば問題ないのですが、特にライナー系の打球は遠近感が掴みづらかったことを思い出します。

そして、「音」。

僕が守るライトの隣にある一塁側アルプススタンドからは、沖縄独特のあの「指笛」がたくさん鳴り響いています。

この音、間近で聞くと本当に気になるのです。
特にアルプススタンドからブラスバンドの大音量と共におりてくるこの指笛は、すごく守っていて「押されている」気がしました。

そして、甲子園が終わったあと、自分がしばらくこの耳に残る指笛の音に苛まれることになるとは、この時は想像もしていませんでした。

さて、話を試合に戻しましょう。

10回裏沖縄尚学の攻撃、3つの四死球で2死満塁と攻められ、桐蔭はサヨナラのピンチを迎えます。

この時の僕の心境ですが、「俺のところに飛んでこい!」

と思えるほど強いメンタルの持ち主だったら、もっと良い選手になれたかなあと思い返すことがよくあります(笑)

とにかく、自分の心臓の音が他の人にも聞こえるんじゃないかというくらいドキドキしていました。

結果は、高く上がったキャッチャーフライ!
何とかサヨナラのピンチを脱します!

そしてこの時の僕はというと…。

実は、キャッチャーフライがどこに上がったのか一瞬見えなくて、打球を見失ったのです…。
正直、焦りました…(苦笑)

この時の僕の慌てふためきぶりはTVにも当然映らず、打球もキャッチャーの上ですから、スタンドの人も僕は見ていないはずですので、僕の心だけに閉まっておくこととします(笑)
見ていた方がいたらそっと教えてください(笑)

そして、試合は延長11回に入っていきます。
この回は守備に好プレーも生まれ、両校ともに相手に得点を与えません。
スコアは未だ4-4、両校全く譲りません。

そして、いよいよ、激動の開幕戦は運命の延長12回へと突入していくのです…。

さて、コラムNo.7は「無情!サヨナラエラー!」をお送りします。
次回もお楽しみに!