B.B.CLOVERSコラム【甲子園の教訓】 ~New Edition~
No.3 「甲子園練習、そして運命の抽選会へ」

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コラムNo.2では、甲子園入りまでのエピソードをご紹介致しました。
コラムNo.3では、「甲子園練習、そして運命の抽選会へ」をご紹介してまいります。

【写真:神奈川新聞に掲載された大会前練習の様子】

さて、新幹線にて新大阪駅に到着した桐蔭ナインは、兵庫県芦屋市にある神奈川県代表の専用宿舎である「ホテル竹園」に入りました。

ご存知の方も多いかと思いますが、甲子園ではに各県代表校の専用宿舎が割り当てられております。
後の社会人野球在籍時に、四国のとある県代表の宿舎に泊まったことがあったのですが、「神奈川はとても恵まれていたなあ…」と感じたことを覚えております。
また、先日は東京代表が宿泊する宿舎にも泊まりました。
各県の代表校が宿泊する施設をツアーで回るというのも、甲子園ファンの方には面白い試みなのではないでしょうか?

さて、いよいよ「甲子園練習」当日を迎えました。
それは、子供の頃から夢にまで見ていた甲子園へと足を踏み入れる瞬間が来るということを意味します。

写真撮影用にベンチ前に整列し、キャプテンの掛け声とともに黒土のグランドへと飛び出し、そのまま緑の芝が鮮やかな外野まで全力で走り抜け、目前にそびえ立つアルプススタンドをセンター付近から見上げたその瞬間、僕の目にはふいに涙がこみ上げてきました。

まさか、「甲子園練習」で自分が泣くとは想像していなかったので、自分でも少し驚きがありましたが、他のメンバーに気づかれないようにそっとユニフォームの袖でその涙を拭いました。

その時の自分でも言い表すことのできない感動は、今でも鮮明に覚えています。
その今までに経験したことのない大きな感動が、「涙」という形になって表れたのでしょうね。
これ以上ない幸せな涙だと言えますね。

そして、その後尼崎や伊丹にあるグランドでの練習を日々重ねていく内に、桐蔭ナインに対するマスコミの記者数が徐々に増えていきました。

今回の写真は、その練習時の様子が神奈川新聞に掲載された時の一コマです。

この時の僕はといえば、バッティングが突然目覚めたかの様に好調で、その好調さ故、記者の方が取り上げてくださったのでした。

一方で、僕個人のコンディション自体は良かったものの、チーム全体のコンディションはなかなか上がってきませんでした。

なぜか…?
その理由は…?

「ケガ」です。

県大会を中心選手として戦い抜いたレギュラーたちの半数以上が何かしらの「ケガ」を抱えてしまっている状態という大変厳しい状況…。

中でも要の遊撃を守るキャプテンはといえば、県大会の準決勝の試合中に利き手である右手首を骨折し、誰もがその試合出場を危ぶみながらも、翌日の決勝戦を痛み止めの注射と坐薬を打って戦い抜きました。

前コラムでお伝えしたとおり、12日間で7試合の激戦を戦い抜いた代償は、「ケガ」という形でチームに大きくのしかかってきてしまったのです…。

しかし、その厳しいチーム状態に反するかのように、神奈川県代表である桐蔭学園に対する大会前の世の中の評価は、日を追う毎にうなぎ登り状態になっていきました。

それもそのはずです。

このチームは、全国一の激戦区である神奈川大会をチーム打率4割近い超強力打線で勝ち上がり、センバツ準優勝の東海大相模や、春季関東大会優勝の横浜ら強豪校がひしめく中で頂点に立ったわけですから。

しかも、大会直前には、その年のセンバツ優勝校である帝京(東東京)にも、あくまでも練習試合ではありますが、4番・高橋由伸(読売ジャイアンツ)が試合終盤に三澤興一投手(元読売ジャイアンツなど)から劇的な逆転HRを放って、見事な逆転勝利を収めていたのです。

こうした細かな情報がマスコミに届けば届くほど、評価が上がっていったというわけです。

本来であれば、「帝京の甲子園春夏連覇なるか!?」がもっと騒がれてもおかしくないところ、ある日の新聞では「東の横綱は桐蔭学園(神奈川)、西の横綱は松井秀喜率いる星稜(石川)」との見出しが大きく踊りました。

そうです、この年はあの伝説の松井秀喜氏の「5連続敬遠」で物議が醸された年だったわけです。

この「5連続敬遠」についての私見はあえてここでは詳しく述べないこととしますが、今僕が言えることとすれば、「甲子園はそういう場所である」ということでしょうか…。

さて、そんな世論が桐蔭ナインに届き始めたころ、運命の抽選会当日を迎えました。

壇上には我々のキャプテンの緊張している姿が見えます。
キャプテン自身のケガやチームの状態を考えても、出来る限り試合の日程を6・7日目などに遅らせたいことは言うまでもありません。

そして、桐蔭学園の運命の抽選順が回ってきました。

キャプテンがクジを手に取ります。

星稜(石川)か、池田(徳島)か、もしくは近大付(大阪)か…。

そのクジの行方は…。

封筒を開いた瞬間に、キャプテンが物凄い形相で観覧席の僕たちを見ます。

と同時に、「桐蔭学園は、大会第一日目第一試合、対戦相手は沖縄県代表・沖縄尚学高校に決まりました!」とのアナウンスが会場に響き渡ります。

やってしまった…。

開会式直後の第一試合、すなわち開幕戦です…。

その瞬間から、僕たちの「運命の歯車」は少しずつ狂い始めたのでしょう…。

コラムNo.4は、~開会式から開幕戦へ~をお送りします。
次回もお楽しみに!